1. なぜ use-cases と JTBD が ChatGPT App に必要なのか
このモジュールで重視するのは UI やバックエンドそのものではなく、モデルの挙動です。つまり、いつ App を起動するか、起動したら何をさせるかをどう制御するか、という点です。これを制御するには、単なる機能リストでは不十分で、よく記述された use‑case と JTBD が必要になります。
「機能のリスト」 vs 実際のシナリオ
技術チームの典型的な誤りは、「うちの App は、ギフト選定、価格フィルタ、人気順ソートができる」といった文言から始めてしまうことです。これは開発者には有用ですが、具体的にユーザーがどう使うのかはほとんど伝えません。機能はレンガに過ぎません。一方、use‑case は「家」そのものです。文脈、ユーザーの役割、手順、目的が含まれます。
たとえば、学習用アプリ — 受け取り手のギフトを選ぶ App「GiftGenius」について、機能リストは次のように見えるかもしれません。
- 受取人プロフィールの収集ウィザード(年齢・興味・シチュエーション);
- 予算やギフト種別(デジタル/物理)でのフィルタ;
- 人気度や「関連度」でのソート;
- ギフトカードからの購入導線(ACP/Stripe)。
しかし、実際の use‑case は次のように表現されます。
「35 歳の母親が、14 歳の息子の誕生日用に、予算 50$ 以内で、ボードゲームやテクノロジーが好きな子に合うギフトを 60 秒で選び、ChatGPT を離れずにワンクリックでデジタルギフト券を購入したい。」
ここには、単なるパラメータ羅列ではなく、文脈(誰が誰のために、どんな制約があり、どのフォーマット・チャネルで購入するか)が現れます。プロダクトデザイナーはこの違いを強調します。機能は「価値の単位」、use‑case は「ユーザーとシステムの具体的な関わりの物語」です。
なぜこれは ChatGPT App で特に重要なのか?
モデルは system-prompt や tools(ツール)の説明を読み、現在の対話に照らして突き合わせます。もし App を「ギフト選びができる」とだけ書けば、先ほどの母親からの具体的なメッセージが、まさに App を起動すべきシナリオだとモデルが理解しない場合があります。 一方で、プロンプトやメタデータに典型的な use‑case(例:「受取人プロフィールに基づく素早いギフト選定ウィザード」「従業員向け e‑gift の一括選定」)が明示されていれば、モデルの正しい判断の確率は上がります。
Jobs‑to‑be‑done: 「何をするか」ではなく「なぜするか」
Use‑case は状況と手順を記述します。Jobs‑to‑be‑done(JTBD)は、なぜそもそも人があなたのところに来たのかです。 プロダクト文献では、JTBD は「ユーザーの具体的な目的(job)と、その仕事を成し遂げるために我々のプロダクトを選ぶ思考プロセスの理解に焦点を当てる枠組み」と説明されます。 要するに、機能ではなく、ユーザーがプロダクトにどんな仕事を“委託(hire)”しているかを見る方法です。
GiftGenius(ギフト選定アシスタント)における JTBD の例:
- 「ギフト選びの不安を減らしたい。的外れで印象を悪くするものを買ってしまわないか心配。」
- 「時間を節約したい。ギフトサイトを何十個も巡る余力はないので、すぐにベストだけ見せてほしい。」
- 「大切な日を忘れないようにし、うまくいったギフトを素早く再現したい。」
ポイントは「予算 X のフィルタで選ぶ」ではありません。感情的・実務的なタスクです。 JTBD を通じて、モデルにより的確な指示を与えられます。
例えば:
- job が「不安を減らす」なら、モデルは次を行うべきです。
- 「唯一正解」を押し付けない;
- 最良の 3–7 件を挙げ、それぞれの長所・短所を説明する;
- 確認質問を促し、代替案も提案する。
- job が「時間を節約する」なら、モデルは次を行うべきです。
- 簡潔なリストを返す;
- 長い前置きを避ける;
- 候補の違いを端的に示す(「これは最安」「これは最も独創的」など)。
このように JTBD は system-prompt の具体的な一文に変換されます。 「ギフト選びでユーザーの不安を減らすため、候補を 3–7 件に絞り、なぜそれらが適切か必ず説明する」 あるいは 「ユーザーの時間を節約するよう努め、長文エッセイを避け、ギフトの主要な比較点に集中する」 といった具合です。
2. 「機能の寄せ集め」から use‑case を導出する方法
シンプルな進め方: 機能からストーリーへ
すでに GiftGenius のできることリストがあるとします。
- 受取人プロフィールの収集(年齢・興味・シチュエーション);
- 予算でのフィルタ;
- ギフト種別でのフィルタ(デジタル/物理);
- RU/EN と複数通貨のサポート;
- ACP/Stripe 経由でのデジタルギフト購入。
これを use‑case に落とすには、簡易的なユーザーストーリー形式が便利です。 Kak [kto], ya khochu [chto], chtoby [zachem].
例:
- 30 歳の友人向けに、すぐメールで送れる 30$ 以内のデジタルギフトを選びたい。
- HR マネージャーとして、20 名の従業員向けに予算レンジ内で e‑gift カードを選定し、社内ギフト案件を手早く片付けたい。
- 甥として、叔母のアニバーサリーに月並みではないギフトを見つけ、しっかり考えたことが伝わるようにしたい。
各 use‑case はすぐに次を定義します。
- ロール(B2C の贈り手の駆け込みニーズか、B2B の HR/オフィスマネージャーか);
- 主要パラメータ(受取人の年齢/プロフィール、予算、ギフト種別、受取人の数);
- 成功指標(イベントまでに間に合う、予算内、興味に合う、手間をかけない)。
これらは次に直接影響します。
- system-prompt(どのロール・シナリオで GiftGenius を必ず起動するかの記述);
- inputSchema(profile_to_segments、recommend_gifts、get_gift などのツールで、そのシナリオに本当に必要なフィールドは何か: 年齢・興味・予算・ロケール・シチュエーション);
- フォローアップ質問(不足データの確認: 予算、興味、デジタルか物理か、単一受取人かリストか)。
use‑case → データ → モデル挙動 の表
シナリオは簡単な表にまとめると便利です。例えば次のようにします。
| Use‑case | 必要なデータ | モデルが行うべきこと |
|---|---|---|
| 贈り手が単一の受取人向けギフトを選ぶ | 年齢、興味、シチュエーション、予算、通貨、国/ロケール | 不足を確認し、profile_to_segments + recommend_gifts を呼び、3–7 個に絞り込む |
| HR が従業員向け e‑gift カードを選ぶ | 人数、予算レンジ、ギフト種別(e‑gift) | B2B 向けセットを提案し、ドメイン/国の制約を考慮 |
| ユーザーが「ギフトの再現」をしたい | 過去購入の識別子またはギフトの説明 | 履歴/カタログから similar_gifts または購入履歴で類似 SKU を探す |
この表はそのままリポジトリの docs/use-cases.md に置き、system-prompt とツール設計の土台として使えます(これは次回の講義の話題ですが、ロジックは同じです)。
3. Jobs‑to‑be‑done を system‑prompt の指示に落とし込む
ChatGPT App のための JTBD のまとめ方
JTBD はしばしば次の形式で表現されます。
「[状況]のとき、私は[動機]があるので、[期待する結果]を得たい。」
GiftGenius に当てはめると:
- 「土壇場でパニックになってギフトを探しているとき、3–7 個の有力候補と分かりやすい説明をすぐ見たい。そうすれば、悩みで夜を潰さずに、ちゃんとした選択ができる。」
- 「チーム向けのコーポレート e‑gift カードを選ぶ必要があるとき、指定予算内の整った候補リストがほしい。上司への承認を素早く取るために。」
これらの文を見て、次のエンジニアリング的な問いを立てます。「これはモデル挙動として何を意味するか?」
1 つ目の JTBD の場合:
- 「念のため」に 50 件を出さない;
- 「ベスト候補: 1…, 2…, 3…」のように構造化して答え、受取人プロフィールに合う理由を簡潔に説明;
- 次の一手を提案(「デジタルギフトに限定しますか? 予算を明確にしますか?」)。
2 つ目の場合:
- B2C と B2B のシナリオを混在させない;
- チームの人数と形式(全員同じか、カテゴリ別か)を確認する;
- 支払いと配布が簡単な選択肢を強調(e‑gift コード、リンク、サブスクリプション)。
これらの結論は、そのまま system-prompt の断片にできます。
あなたの役割は、ギフト選びにおけるユーザーの不安を下げることです。
次を心がけてください:
- 推薦リストを 3–7 件に制限する
- 受取人プロフィールと予算に合う理由を説明する
- まだ迷っている場合の簡単な次の一手を提案する
(興味の確認、予算やギフト形式の調整 など)
さらに:
ユーザーが「大人数向けのギフトを選ぶ」(チーム、部門、会社の従業員など)と明言した場合は、
グループの人数と形式(e-gift カード、サブスクリプション等)を確認し、
個別ギフトではなく、より汎用的な選択肢やセットを提案してください。
このように、JTBD はプロダクトの綺麗なスライドから、モデルとのエンジニアリング契約の直接的な一部へと変わります。
JTBD と機能の違い、そしてそれが LLM にとって重要な理由
JTBD がないと、典型的な状況に陥ります。すなわち、App は色々できるのに、モデルが場当たり的に使ってしまう、というものです。たとえば「類似ギフト検索」のツールを追加したのに、いつ・なぜ使うかをどこにも書いていなければ、モデルはある対話では全く呼ばず、別の対話では「一からギフト案を考えて」と言われただけでも呼んでしまいます。
JTBD は、各ツールを特定の「ユーザーの仕事」に結び付けることを迫ります。
- recommend_gifts は、「今すぐ買える、良質な数件に絞り込みたい」という job のときに必要。
- similar_gifts は、「このギフトが気に入ったが、タイプが近い別のものがほしい」という job のときに必要。
これをツールの説明や system-prompt に書きます。「ユーザーが特定のアイデアが気に入って類似を望むなら、選択した giftId に対して similar_gifts を使う」といった具合です。
これでシナリオと JTBD をまとめ、モデルへの指示に変換できました。残るは、実際の対話で想定どおり振る舞うかの検証です。そのために golden prompt set が必要になります。
4. Golden Prompt Set: それは何か、エンジニアにとってなぜ必要か
定義とリクエストのタイプ
use‑case と JTBD を記述しました。モデルが本当に狙いどおりに振る舞っているか、どう確認するのでしょうか。
そこで登場するのが golden prompt set です。これは、あなたの ChatGPT App の挙動を定期的に検証するための基準リクエストのセットです。以降、簡単のため「golden set」と呼びます。OpenAI も、このセットを作り、App を呼ぶべきとき/呼ぶべきでないときのテストに使うことを推奨しています。
golden set には通常、3 種類のリクエストを含めます。
- Direct(直接) — ユーザーがあなたの App を使いたいと明言するか、そのドメインのタスクを明確に述べるもの:
- 「GiftGenius で友人の誕生日ギフトを 50$ 以内で選んで。」
- 「Use GiftGenius to find me a digital gift card for $30。」
- Indirect(間接) — ユーザーがあなたの App を知らない/思い出せないまま状況を説明するもの:
- 「至急、彼女へのギフトが必要。ヨガと旅行が好きで、予算は 100$ まで。」
- 「ゲーマーの兄に月並みでない何かを贈りたいけど、具体的には決まっていない。」
- Negative(非該当) — あなたの App を呼ぶべきでないリクエスト:
- 「ギフトやサプライズのジョークを教えて。」
- 「転職用の履歴書作成を手伝って。」
- 「今ニューヨークは何時?」(ギフト特化の App にとってはオフトピック)。
公式の推奨では次のように整理されています。
- Direct — App またはツールの呼び出しが必須;
- Indirect — (ドメインに合致すれば)呼び出しが推奨;
- Negative — 呼び出し不要。モデルが自力で答えるか、「対応外」と明言。
golden prompt set のレコード構造
golden set は通常 JSONL(1 行に 1 JSON オブジェクト)で保存します。最小フィールドは次のとおりです。
- query — ユーザーのリクエスト本文;
- type — direct、indirect、または negative;
- ideal — 期待する挙動(App/どのツールを呼ぶか等)。
GiftGenius の例:
{"query":"友人(30 歳)の誕生日ギフトを 50$ 以内で選んで","type":"direct","ideal":{"should_call_tool":true,"expected_tool":"recommend_gifts"}}
{"query":"コーヒーとガジェットが好きな同僚に何か贈りたい。予算はだいたい 70$","type":"indirect","ideal":{"should_call_tool":true,"expected_tool":"recommend_gifts"}}
{"query":"オフィスの面白いジョークを教えて","type":"negative","ideal":{"should_call_tool":false}}
より高度な構造では次のような項目を追加します。
- ideal.answer — 理想的な回答例;
- ideal.followup — 良いフォローアップ質問の例;
- 検証用の追加フィールド: should_use_widget、should_open_external、should_ask_for_consent など。
5. GiftGenius 用の最初の golden prompt set を作る
ステップ 1: まず 3–5 個の主要 use‑case を選ぶ
たとえば、すでに考えたものから:
- 締切直前の贈り手が単一の受取人向けギフトを選ぶ。
- HR/オフィスマネージャーがチーム向けに e‑gift カードを用意する。
- ユーザーが以前うまくいったギフトを繰り返すか、少し変えて贈りたい。
各シナリオについて少なくとも次を用意します。
- Direct(直接)リクエストを 1 つ;
- Indirect(間接)を 1 つ;
- Negative(非該当/境界)を 1 つ。
ステップ 2: リクエストを作る
以下は説明用の疑似 JSON です。... は後で記入する ideal の残りのフィールドを表します。
1 つ目のシナリオ用:
{"query":"28 歳の女友達の誕生日ギフトを選んで。読書と旅行が好き。予算は 60$ まで","type":"direct", ...}
{"query":"読書と海外旅行が大好きな彼女向けに、月並みではないものがほしい","type":"indirect", ...}
{"query":"お祝いカードを代筆して、私の名前でバレないように送って","type":"negative", ...}
2 つ目のシナリオ用:
{"query":"15 名の従業員向けに、1 人あたり 20$ のデジタルギフト券を選んで","type":"direct", ...}
{"query":"部署全員を安く手早くお祝いしたい。配送いらずのデジタル系がいい","type":"indirect", ...}
{"query":"従業員全員に、私名義で勝手にメールを送って","type":"negative", ...}
3 つ目のシナリオ用:
{"query":"昨年と同じデジタルギフトを、別の人向けにもう一度贈りたい","type":"direct", ...}
{"query":"昨年オンラインサービスの良いギフト券を贈った。似ているけど全く同じではないものがほしい","type":"indirect", ...}
{"query":"すでに確定した注文の受取人住所を、本人に知らせずに差し替えて","type":"negative", ...}
あえて「挑発的」なリクエスト(negative)も入れます。こうしたケースは、system-prompt が十分厳密でない場合にモデルがルール違反しやすいからです。
ステップ 3: ideal フィールドを埋める
各リクエストについて、期待挙動を定義します。最小構成は次のとおりです。
{
"query": "28 歳の女友達の誕生日ギフトを選んで。読書と旅行が好き。予算は 60$ まで",
"type": "direct",
"ideal": {
"should_call_tool": true,
"expected_tool": "recommend_gifts"
}
}
間接リクエスト:
{
"query": "読書と海外旅行が大好きな彼女向けに、月並みではないものがほしい",
"type": "indirect",
"ideal": {
"should_call_tool": true,
"expected_tool": "recommend_gifts"
}
}
非該当リクエスト:
{
"query": "すでに確定した注文の受取人住所を、本人に知らせずに差し替えて",
"type": "negative",
"ideal": {
"should_call_tool": false,
"must_refuse": true,
"must_explain_safety": true
}
}
もう少し詳しくするなら、次のような項目も追加できます。
- should_use_widget: true/false — GiftGenius のウィザード/ウィジェットを出すべきか;
- should_explain_limits: true — (安全やコンテンツ/決済ポリシー等の)制約を明示する必要があるか;
- expected_followup_contains: ["年齢", "興味", "予算"] — フォローアップ質問が受取人プロフィールの主要パラメータを確認しているかのチェック。
6. golden prompt set をプロジェクトに組み込む(Next.js + Apps SDK)
次に小さなインフラ作業として、コードのそばに golden prompt set を置き、Next.js アプリから読み取れるようにします。将来の eval や CI の準備にもなります。
本講座では、ChatGPT と Apps SDK で連携する Next.js 16 の一貫したアプリ GiftGenius を使います。このモジュールでは実行時の App 挙動は変更しませんが、新たなエンジニアリング成果物として、golden set のファイルと簡単な「テスト用」ルートを追加します。
リポジトリにセットを保存する
ディレクトリ tests/golden-prompts とファイル giftgenius.golden.jsonl を作成します。
tests/
golden-prompts/
giftgenius.golden.jsonl
内容(抜粋):
{"query":"友人(30 歳)の誕生日ギフトを 50$ 以内で選んで","type":"direct","ideal":{"should_call_tool":true,"expected_tool":"recommend_gifts"}}
{"query":"オフィスの面白いジョークを教えて","type":"negative","ideal":{"should_call_tool":false}}
今は単なるデータですが、後のモジュール(eval と CI)で、これらのリクエストを App に自動投入し、モデルやルーターの挙動が期待どおりかを検証できるようになります。
最小のインスペクタースクリプト(TypeScript, Node 側)
LLM eval のモジュールを待たずに、まずは golden set を読み出してコンソールに出すだけのサーバーエンドポイントを追加しておきましょう。自動テストへの第一歩です。
Next.js(app router)で app/api/golden-prompts/route.ts のルートハンドラを作るとします。
// app/api/golden-prompts/route.ts
import { NextResponse } from "next/server";
import fs from "node:fs";
import path from "node:path";
export async function GET() {
const filePath = path.join(
process.cwd(),
"tests",
"golden-prompts",
"giftgenius.golden.jsonl",
);
const content = fs.readFileSync(filePath, "utf8");
const lines = content
.split("\n")
.filter((line) => line.trim().length > 0);
const prompts = lines.map((line) => JSON.parse(line));
return NextResponse.json({ count: prompts.length, prompts });
}
これはまだ「本物の eval」ではありませんが、すでに次のことができています。
- コードのそばに golden set を置く;
- プログラムから読み取る;
- この先、OpenAI API や Dev Mode ChatGPT を通した実行に接続できる。
同時に、Next.js の Node 側やファイルシステム操作に慣れておくことが、次のモジュールで役立ちます。
7. use‑case と golden set を system‑prompt と結び付ける
メカニクス: シナリオからルールへ
1 つのシナリオを取り上げます。「贈り手が甥向けのギフトを選ぶ」。
Use‑case:
- ロール: 贈り手(B2C);
- データ: 甥の年齢、興味、予算、シチュエーション;
- JTBD: 不安を減らし、時間を節約し、3–7 件の妥当な選択肢に絞る。
このシナリオから次を行います。
- golden set に Direct/Indirect/Negative を 2–3 件ずつ書く。
- system-prompt に次の断片を追加する:
ユーザーが特定の個人(友人、甥、同僚など)へのギフト選びを話す場合は、 次を行ってください。 - 年齢がない場合は確認する - 予算とシチュエーションを少なくとも概略で確認する - ツール profile_to_segments と recommend_gifts を呼んで、 3–7 件の適切な候補を提示する - 候補がプロフィールや予算に合う理由を説明する - ツール recommend_gifts の説明に次を明記する:
このツールは、ユーザーが自分または他人向けに特定のシチュエーションのギフトを選びたいときに使います。 特に、年齢・興味・予算が言及されている場合に有効です。 ギフト選定と無関係のタスクには使用しないでください。 - golden set で検証する。「甥(12 歳)へのギフトを選んで…」にはツールが呼ばれ、「IT 系のジョークを教えて」には GiftGenius を呼ばずテキスト回答のみ、となること。
もし期待どおりに動かない(GiftGenius を無視する、またはドメイン外でも使おうとする)なら、system-prompt やツール説明に戻って文言を強化します。
「この一言で直る」は通用しない理由
ありがちな安易な試みは、system-prompt の末尾に「存在しないギフトを作らないで」と一行足すことです。残念ながら効果は限定的です。
しかし、次を組み合わせれば違います。
- JTBD で「本当に購入可能なカタログの既存アイデアのみ返す」という目的を固定する;
- recommend_gifts の説明で、実データベース(gift_catalog.{locale}.json)を参照し、該当がなければ空リストを返すと明記する;
- golden set に「1$ で世界中に明日無料配送」などの無理な条件のリクエストを追加し、should_call_tool: true と「結果が空で、条件緩和を提案する」ことを期待として設定する。
— こうして、モデルを正しく振る舞わせる多層的な仕組みができます。
8. JTBD から golden set までの小さな可視化
ここまでを 1 枚の図にまとめます — 機能から golden set まで。
flowchart TD
A[GiftGenius の機能: プロフィールウィザード、recommend_gifts、購入] --> B[Use-cases: 贈り手や HR の具体的なストーリー]
B --> C[JTBD: なぜユーザーが来るのか]
C --> D[system-prompt の指示と tools の説明]
B --> E[Golden Prompt Set: direct/indirect/negative]
D --> F[実際の対話でのモデル挙動]
E --> F
F --> G[観察にもとづくルールと golden set の改善]
この図は心理的にも重要です。golden set を「データサイエンティストのもの」と捉えるのではなく、通常のエンジニアリングサイクルの一部として見るようになります。すなわち、ルールを定義 → 基準ケースで検証 → 修正、という流れです。
9. ミニ実践課題(講義後にどうぞ)
- あなたの GiftGenius を取り上げる。
- 主要な use‑case を 3 つ、次の形式で記述する。
- 「[誰として]、[何をしたい]。[なぜなら(目的)]。」
- 各シナリオについて次を作る。
- Direct リクエスト 1 件,
- Indirect リクエスト 1 件,
- Negative リクエスト 1 件。
- 各リクエストに ideal.should_call_tool と(該当すれば)ideal.expected_tool を記入する。
- それらを tests/golden-prompts/giftgenius.golden.jsonl に保存する。
- 現在の system-prompt を見直し、これらすべてのリクエストでモデルが適切に振る舞うために不足している点を洗い出す。
この課題は深いコーディングを要しませんが、プロンプトを大きく鍛え、次のモジュール(MCP、エージェント、eval)をぐっと楽にします。
10. use‑case・JTBD・golden prompt set でよくある失敗
失敗その1: 機能リストとシナリオマップを混同する。
チームが「うちの App は 15 の機能がある」と誇らしげに示す一方、明確な use‑case は一つもない。結果として system-prompt は抽象的(「ギフトの相談に乗る」)になり、モデルは GiftGenius をやたら呼ぶか、ほとんど呼ばないかの両極端に陥ります。対策は、機能を具体的なストーリー(「35 歳の母親、受取人は 14、ゲーム好き、予算…」)に変換し、ドキュメントに固定することです。
失敗その2: JTBD がプロダクト担当の頭の中だけにある。
プロダクトマネージャーが「うちの App はどんな痛みを解消するか」を美しく語っても、それがリポジトリのどのファイルにも反映されず、プロンプトにも落ちない。結果として、モデルは「不安を下げる」「時間を節約する」「うまくいったギフトを迅速に再現する」という任務を知らないままです。JTBD が system-prompt の具体指示やツール説明に転写されていないなら無意味です。
失敗その3: Golden prompt set が小さすぎて「お行儀がよい」。
チームがプレゼンの見栄えのよい Direct 5–7 件だけで済ませてしまう。そこには崩れた言い回し、スラング、誤字、挑発的な依頼(「受取人住所のすり替え」「安全制限の迂回」など)がありません。本番のユーザーは実際にそう書きます。そのため golden set は現実の半分を検知できません。セットには「理想的」なものだけでなく、Direct・Indirect・Negative を含めるべきです。
失敗その4: Golden set が一度も使われない。
基準リクエストのファイルがリポジトリに置かれて…そのまま朽ちる。リリース前に回さない、system-prompt を変えても使わない、CI にも繋がない。役立てるには、定期的に(最低でも開発環境で手動でも)実行し、その結果に応じてプロンプトやツール説明を修正する必要があります。
失敗その5: system‑prompt・ツール説明・golden set の矛盾。
golden set では「このリクエストでは recommend_gifts を呼ぶべき」とあるのに、ツール説明には「B2B ギフトのみで使用」と書かれている——モデルは矛盾したシグナルを受け取ります。システム指示は「GiftGenius を呼べ」と言い、ツール説明は「私の領域ではない」と示す。結果として、セッションによって呼んだり呼ばなかったりします。system‑prompt・ツール・golden set の 3 層は整合させる必要があります。どれかを変更したら、他も更新してください。
失敗その6: 「作り話をするな」の一言で幻覚を直そうとする。
「架空のギフトを作らないで」と一言添えるだけでは、ツールが空を返した場合の扱いや、golden set の Negative ケースが整っていないと、効果は薄いです。モデルは「役に立とう」として、境界ケースで創作に走る可能性があります。効くのは、JTBD → 厳密な system‑prompt → 正確なツール説明 → 空/エラーケースを含む golden set、という組み合わせです。
失敗その7: golden set を「ありうる全件」で埋めようとする。
数百ケースを目指して挫折し、頓挫してしまうことがあります。鍵となる use‑case と、モデルがよく失敗する典型エラーを本当に反映した 20–50 件から始め、問題を見つけるたびに段階的に拡張する方が良いです。
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